――島根県の東南端に位置する、仁多郡奥出雲町。この地で誕生した松葉屋は、創業80年を超える老舗の和菓子屋です。専務を務める内田咲子さんは、ワーキングホリデー、留学という2度の海外経験から、地元の良さを再認識。Uターン後は、看板商品「噂の生どら」を全国に広めました。また、家業に奔走する傍ら、まちづくり会社の代表として、ゲストハウス「禾(のぎ)と恵(めぐみ)に咲くお宿まつ」を開業。地域の事業者として、一番の奥出雲ファンとして、地元の魅力を発信し続けています。
海外経験を経て、家業に全力投球
――まずは内田さんの経歴をなぞりながら、お話をお伺いしたいと思います。
【内田】
出身は、島根県の奥出雲町です。地元の高校を卒業後、広島の専門学校に進学。在学中に資格を取り、卒業後は医療事務として広島と大阪で働いていました。26歳から1年間、ワーキングホリデーでニュージーランドに行き、家業である和菓子屋が移転するタイミングで帰国しました。当時は、移転オープンを手伝ったら就職活動をするつもりで、家業に就く気はまったくありませんでした。移転後、お店が少し落ち着いてから、次はイギリスに10カ月ほど留学しました。滞在中、ほかのヨーロッパの国々も旅行したんですが、みなさん自分の国や仕事に誇りをもって生活されていて、すごく悔しかったんですよね。私、日本のことも和菓子のこともよく分かっていないし、誇りなんてもっていなかったなと。その経験がきっかけで、奥出雲を良くしたい、松葉屋のお菓子を海外で売るぞ、という気持ちが芽生え、日本に帰ってきました。
――海外でのご経験がターニングポイントだったのですね。帰国後はどんなお仕事を?
【内田】
松葉屋の主力商品である「噂の生どら」を有名にする、全国で食べてもらうことに兄と全力投球しました。いろいろなイベントを企画したり、百貨店で販売したり。1カ月のうち3週間は、県外の百貨店で生どらを売るような、企画営業を約5年。死に物狂いでしたね。
まちづくりからゲストハウス開業へ
――家業への全力投球から、まちづくりにはどうつながっていくのでしょうか?
【内田】
松葉屋で働きながらも奥出雲のことをもっと知りたいと思い、行ったことのない飲食店を周ったり、地元の神社を巡ったり、今まで関心のなかったことも調べながら、ブログでの発信を始めました。そうすると反響がありまして、いろんな方々から連絡をいただくようになったんです。そこから出会った方々に来ていただくと、どんどん新たな発見があって。そういったまちの良さや価値を私だけが知るのではなく、地元をはじめ、もっとたくさんの人に知って欲しい、奥出雲のリピーターを増やしたい、と思うようになりました。そのためには、ある程度地域でまとまって頑張らないといけないと思い、いろいろな活動を始めました。
――松葉屋とは別で、どんな活動をされましたか?
【内田】
経営コンサルタントの方との出会いもあり、アドバイスを受けながら、島根や奥出雲のいいものを東京で売ったり、東京の人たちを島根に呼んだりするきっかけをつくるために、2006年に別会社を設立しました。ですが、松葉屋の仕事が忙しく、途中東京から奥出雲にIターンで移住した女性にも参画いただいたのですが、なかなか思うように動けていませんでした。
――その後、どんなきっかけでゲストハウスの開業に向かったのでしょうか?
【内田】
挫折感を味わい、会社をたたむことも考えましたが、有限会社咲楽としての歴史もあるので、閉めずに休眠状態にしました。その後、旧松葉屋に兄家族が住んでいたのですが、空き家になり、そこをゲストハウスにしようと思ったんです。どういう形態の宿にしようかと思っていたころ、一棟貸しが出始めたときだったので、ここは一棟貸しが合うかなと。着工した途端にコロナが流行りだしたんですが、2021年4月に「禾と恵に咲くお宿まつ」をオープンすることができました。
――ここに至るまで紆余曲折があったんですね。ぜひ、宿の特長や魅力をお聞かせください。
【内田】
食事の提供はありませんが、大きなアイランドキッチンがあります。ここがうちの売りで、基本的な調理器具から食器、調味料、必要なものはすべて揃っているので、地元のスーパーでお買い物をして、みんなでつくって食べて、手ぶらで楽しむことができます。海外にいるとき、ホームパーティーがすごく楽しくて。みんなで料理をつくって、みんなで飲んで。それが私にとって居心地がよかったので、そんな場所をつくりたかったんです。非日常という空間のなかで、家族や友達同士の絆を深めてもらえるような場所でありたいですね。
出会いや交流を大切にしながら
――内田さんお一人で運営されているのですか?
【内田】
チェックイン、チェックアウト、お掃除やベッドメイキングなど、全部やっています。あえてお宿の説明書きは置かず、来られたお客さんは、私がひと通りご案内しています。私や両親、ゲストのみなさんと交流したいんです。一緒に食事をしたり交流したりは、まだお知り合いの方だけですが、私たちを第2の家族、この場所を第2の故郷のように思っていただけるような場所にしたいですね。
――素敵な宿ですね。最後に、今後の目標をお聞かせください。
【内田】
本業もあるので、私がここで受け入れられるゲストの数は限られていますが、人と人をつなぐことをやっていきたいですね。例えば、県外から来てくださった方と地元の方。この人たちには、この人を会わせたら面白いかも、みたいな。そこからどんな化学反応が起きるのか、というのを見てみたいと思っています。
内田さんとのSo-Gu体験
内田咲子さんとは、島根県奥出雲町(仁多郡)でSo-Guできます。
※現在、体験プログラム鋭意作成中。