――2000年代から関心が高まった地方への移住は、今や一過性のブームが終わり、“自分らしさ”を体現する人たちにとっての一種のムーブメントになっています。自身のビジネスで起業する者、飾らないワークライフスタイルを楽しむ者、地域課題の解決に取り組む者など、日本の各地方で多くの若者たちが自分らしく活躍しています。
現在、徳島県吉野川市で地域おこし協力隊として活動する萬川奨さんも、そんな若者の一人。
飛び込むように移住したのが2017年。様々な人と地域で出会い、参加するコミュニティの中で自分の楽しさを見つけ、活き活きとした移住生活を送っています。
カバンひとつで移住した町、徳島県吉野川市
――はじめに、萬川さんの経歴をお聞かせください。
【萬川】
出身は和歌山県です。大学では教職課程を取っていたので、そのまま社会科の教員になるつもりでしたが、2年生のときにインドネシアや三重県でのワークキャンプに参加した際、様々な国の人と交流するなかで「自分が遅れている」と強く感じ、1年休学して色々な経験を積みたいと考えるようになりました。その後、4年の春に休学をして海外ビジネスインターンに参加し、ベトナムに渡りました。
最初はハノイで、日系の飲食店とホテルのマネジメントを担当しました。初めのうちは、店に泊まり込むこともありましたね。働いていたところが接待で使われるようなお店で、まずはお客さんの話をひたすら聞けと。そして、お客さんからお酒を奢ってもらう。それが僕の最初の役割とミッションでした(笑)。
国民性の違いや色々な問題とぶつかりながら、とにかくハードな毎日でしたが、3ヵ月ほど働くと認めてもらえるようになり、ハノイからダナンへ異動になりました。トータル1年間インターンに参加した後、大学に戻り、卒業後はインターン時代に仲良くなったお客さんに呼ばれ、ベトナムでホテル内の飲食店のコンサルティング業を経験しました。
――どのようなご縁や経緯で吉野川市に来たのでしょうか?
【萬川】
帰国後、日本の伝統工芸に携わりたいと思い、色々調べていたところ、阿波和紙に興味を持ち、2017年の9月に吉野川市山川町(徳島県)にある阿波和紙伝統産業会館に飛び込みました。特に知り合いがいたわけではなく、家も決まっていなかったんですが、カバンひとつで移住しました(笑)。
まちづくりの面白さを教えてくれた地域コミュニティ
――地域おこし協力隊に入ることになったきっかけをお聞かせください。
【萬川】
和紙会館では、和紙の種類や多様な使用用途を学び、休日は美郷で開催されていた梅酒まつりなどのイベントのお手伝いをしていました。そんな時、原田さんと眞鍋さんに出会い、それからまちづくりの面白さを徐々に感じ始め、2019年の春には和紙会館の仕事を半分にして、地域活動やコミュニティに参加することに時間を割くようになっていきました。そのなかで、吉野川市の方々から地域おこし協力隊という選択肢を教えてもらい、応募する流れになりました。
――吉野川市地域おこし協力隊での活動内容をお聞かせください。
【萬川】
観光をテーマに活動しています。メインは、美郷ほたる館を基点とした観光資源の構築や発信、梅酒特区でもある美郷地区の情報発信や特産品の販路開拓です。観光ツアーの企画や「美郷MARKET」などの各種イベントにも関わっています。
今年(2021年)の6月には、「美しい郷の特別なレストラン」と題し、ホタルが飛び交う美郷を舞台に『和』をテーマにしたツアーを開催しました。和紙漉きの体験、梅酒酒蔵で見学と試飲、標高350mの古民家で元公邸料理人によるスペシャルディナー、最後に国の天然記念物にも指定される美郷のホタル観賞を楽しむ、といった内容のツアーです。
吉野川市の新しい形の観光協会を作るプロジェクト(2021年7月に「一般社団法人Kittamu」が設立・発足)にも参加しているので、毎年ホタルの時期には「美しい郷の特別なレストラン」を新しい観光協会で回していけるようにしていきたいですね。
――映像制作を始めるきっかけは何だったのでしょう?
【萬川】
和歌山で写真家の方に出会ったことがきっかけで、まず写真から始めました。そこから映像に入っていたという流れです。おかげさまで映像制作も仕事になっているので、今後も続けていきたいですね。
――これまでの活動で特に印象に残っていること、苦労したことなどはありますか?
【萬川】
収支の部分ですね。昨年は、イベントを開催した時も補助金を受けてプラマイゼロくらいだったので、今年からはプラスにしたいなと。基本的に、全て任期後(3年後)を見据えて活動しているので、今後はスポンサー集めもしていきたいと思っています。
新時代の「農泊」を実現する
――2017年から吉野川市に移住されていますが、地方移住や田舎暮らしの魅力はどんなところだと感じていますか?
【萬川】
地方は周りの知人で生活が完結したり、経済がある程度回ったりするじゃないですか。誰が作ったものなのか、しっかりと“顔も見える”。これは東京や都市部では味わえない感覚なので、すごく魅力的だと思います。あと、やっぱり山は静かなので落ち着きますね。
――今後の目標や実現したいことをお聞かせください。
【萬川】
ネット環境やクリエイティブな作業環境が整う、新しい時代の農家民宿をやりたいと思っています。写真や映像制作をやりながら、必ず任期後までに実現します。 最近、周りにアーティストやクリエイターが多いので、みんなの作品を流したり展示したり、そこに宿泊客の作品も増えていったり、そんな宿泊施設に出来たら嬉しいですね。
萬川さんとのSo-Gu体験
萬川奨さんとは、徳島県吉野川市でSo-Guできます。
※現在、体験プログラム鋭意作成中。