――香川県三豊市にある父母ケ浜が、“日本のウユニ塩湖”として注目され、多くの人が訪れる前から進められてきた地域振興プロジェクト。地域の人と、外の人が手を取り合った相乗効果で、そのプロジェクトの芽が次々と開花しています。
地域の経営者の熱い思いに心を打たれ、この地に腰を据えると決め、三豊市に「瀬戸内ワークス」を立ち上げた東京都出身の原田佳南子さん。最初の事業、外国人観光客をターゲットにした、讃岐うどん文化体験宿泊施設「UDON HOUSE」は国内外から反響が。そして今、地方の人材不足の解消に向け、都会と地方の人をつなぐ事業に新たに挑戦しています。
必要なのは地域で自ら事業を立ち上げる力
――はじめに、原田さんの経歴をお聞かせください。
【原田】
私は15歳まで両親の仕事の関係で北海道札幌市に住んでいました。その後はずっと東京で、地方に住んだことがなく、就職活動のときから地方で住んでみたいと思っていました。前職の楽天に就職し、最後の約4年間は地方創生に関わる仕事をしていたのですが、その頃には、どこか地方で起業したいと考えていました。
――なぜ、地方で起業したいと?また、UDON HOUSE立ち上げの経緯を教えてください。
【原田】
当時、自治体のWebプロモーションの担当でしたが、PRだけで本当に地域が活性化するのかという疑問を抱いていました。また、地域で活動している事業者の方々と仕事を通して会う機会があったのも大きかったです。「必要なのは覚悟だ」、「都会の会議室で話していないで早く地域で一歩踏み出してください」と背中を押してくれる方がいて。その言葉が当時ビシビシと刺さりました。小さくても自分の事業をやる覚悟や生き様がかっこいいし、背負うものが全然違うように感じて。その姿に、「地域に必要なのは地域で自ら事業を立ち上げる若い力だ」と教えられ、自分も地域に飛び込みたいと思いました。
初めて三豊に来たのは会社の仕事で訪れた2016年でした。その翌年に退社し、1年間はフリーランスで仕事をしていましたが、その頃に、三豊にうどんに特化した宿を作ろうという話が進んでいて立ち上げを手伝うように。運営者を探す段階になって、自分でやりたいという思いが湧き、2018年に東京から三豊に移住し、UDON HOUSEの代表となりました。
香川の日常、うどん文化を体験する宿
――UDON HOUSEのコンセプトをお聞かせください。
【原田】
讃岐うどんの文化を学ぶ宿がコンセプトです。移住して感じたのですが、うどんって知れば知るほど奥が深いし、香川の人に本当に愛されている。その香川の人の当たり前を観光客は知らないことが多くて。そこで、香川のうどん文化全体を学べる場を作りたいと思いました。もっと言うと、その価値を一番感じてくれる対象として、外国人観光客をメインのターゲットにしました。
UDON HOUSEは、香川のうどん文化を体験する宿で、宿泊よりも体験を重視しています。1日目、参加者全員で6時間かけてうどんを作り、次の日の朝は、街に出て実際のうどん屋を巡って本場の味を楽しんでもらっています。
――海外旅行もお好きだったそうですが、自身の経験が現在の事業に活かされていることはありますか?
【原田】
私は、The観光みたいな旅が好きじゃなくて。地域の人たちが日常的に行くお店に行きたいし、その日常が垣間見られることが旅の醍醐味だと感じてきました。だから地域の日常そのものを体験できる旅を作りたかった。
そこで、讃岐うどん文化を学ぶ1泊2日のプランを考えました。うどんの生地を寝かせている間に農家さんを訪ね、旬の野菜を収穫させてもらっています。うどんに乗せる天ぷらの具材も自分で収穫するのですが、同時に農業従事者に会える機会にもしています。旅をしていると、宿や土産屋など観光に従事している人に出会うことはありますが、普通に生活している人とはなかなか会えない。そういった人との接点を持っていただくことも大切にしています。
――新型コロナウイルスの流行後に始めたことはありますか?
【原田】
元々半分以上が国内のお客様でした。今は、特に県内の方に体験をしてもらおうと日帰りプランを積極的に展開しています。
それと、2020年の春から、「うどんのおうち」という商品を作り販売しています。私たちは、うどんのサブスクと呼んでいますが、基本的に毎月うどんを購入いただき、今月は釜玉、来月はぶっかけという形で毎回違ううどんがご自宅に届きます。コロナに影響されないような柱を作ろうとスタッフと考えてスタートした事業です。
地方の人手不足の解消を目指して
――2019年の法人化に至った思いをお聞かせください。
【原田】
UDON HOUSEを始めてから三豊の経営者の方々とたくさんのご縁ができました。この地域の人と一緒にいろいろなことやったら、町全体がすごく面白くなりそうだと思えて会社にしようと決め、移住をした翌年に法人化しました。本格的に三豊に腰を据えようと覚悟を決めたのは、この法人を立ち上げたタイミングかなと思います。
――一緒に挑戦できる仲間がいるのは素晴らしいことですね。
【原田】
はい。UDON HOUSEを始めた頃に地元の人たちを集めて飲み会をよく開いていました。そこに経営者の人たちが集まり、他の人も連れてきて、その輪が広がって。みんなで三豊の未来を語り合うようなことが増えました。そんな飲み会から出たアイデアから、地元の経営者を中心に11社が出資して会社を作り、「URASHIMA VILLAGE」という一棟貸しの宿を2021年にオープンし、そのプロデュース役を担当しています。
――瀬戸内ワークスが目指されていることは?
【原田】
まちの人事部のような役割を目指しています。その背景もあり、地域の仕事と住まいとコミュニティを繋ぐことをコンセプトにした「瀬戸内ワークレジデンスGATE」を2020年にオープンしました。三豊に自分の役割を持ちたい人に滞在いただく宿です。
東京にいた頃、地方には仕事がないとよく聞きましたが、実際地方は人手不足な企業がほとんど。その情報をうまく伝えられたら、地域の外から人が入ってくる仕組みができると考えています。副業・兼業、2拠点生活も含め、多様な働き方ができる場として、地方が注目されている今、まずは外からの人材で地元の人材不足を解消していきたいです。
仲間と共に、地域の人づくりを
――今まで活動されてきて、印象的だった出来事はありますか?
【原田】
移住をしてきたこの土地で、家族みたいな仲間ができたことです。東京で会社員をやっていたときには同士と言える関係性の人がいなかったのですが、知らない土地に来てそんな仲間ができたことは思いもよらなかった嬉しい出来事です。
――今後は、どのようなことをしていきたいですか?
【原田】
「まちづくりは、ひとづくり」と言うように、教育が大事だなと考えます。三豊は目の前に海があって、食べ物が美味しくていいなという人もいますが、一方でないものもある。例えば、弊社もそうですが新卒社員を育ててあげられる環境が整っていない小さな職場も多いので、やっぱり若い人が県外に出てしまう。なので、地方にいながら、人をきちんと育てられる環境を整えられないのかな、とか。学校だけが教育の場ではないと思うので、子どもから大人まで様々な方が学べる場を作り地域の価値がもっと上がったらいいなと思っています。
原田さんとのSo-Gu体験
原田佳南子さんとは、香川県三豊市でSo-Guできます。
※現在、体験プログラム鋭意作成中。