――長崎市内の中心部から車で15分。海と山に囲まれた小さな漁師町、茂木(もぎ)町。かつて料亭街として栄えた町の美しい景色とのどかな空気感は、訪れる人に癒しを与えてくれます。大島徹也さんがそんな茂木町で活動を始めたのは、今から約8年前のこと。現在は、2つの宿泊施設や飲食店などを運営すると同時に、茂木エリアのまちづくりにも尽力しています。
地域全体をホテルに、持続可能なまちをつくる
――はじめに、大島さんの経歴をお聞かせください。
【大島】
生まれは、長崎県の南島原市です。高校までは地元で、卒業後は長崎大学に進学しました。当時から将来は起業したいと思っていたので、起業家を多く輩出している不動産会社に就職し、大阪で約3年勤めました。退職後は、リフレッシュも兼ねてピースボートクルーズに乗り、半年ほど世界を見て回りました。山崎豊子さんの小説「沈まぬ太陽」に影響されて、とにかくアフリカに行きたかったんです(笑)。この経験がきっかけで、長崎の自然や文化の価値に改めて気づき、地元に戻ることを決めました。帰ってきてからは、長崎大学の事務職員として働きながら、まちづくり系のイベントにも関わるようになりましたね。その後、地方創生に興味のある経営者の方との出会いもあり、ゲストハウス「NAGASAKI HOUSE ぶらぶら」を30歳のときに開業しました。当初は雇われ支配人でしたが、33歳のときに、会社を設立すると同時に不動産を買い取り、経営者としての運営が始まりました。形としては事業承継になります。
――経営者として改めて宿を見たとき、ご自身の感覚はどう変わりましたか?
【大島】
最初は実感がありませんでした。ただ、雇われ支配人とは違い、結果がすべて自分に返ってくるので、お金に対しては一気に敏感になりました。あとは、コロナ禍が大きかったですね。地獄を見つつも、ビジネススキームや座組のつくり方はもちろん、人とのつながりの大切さを改めて考える機会になりました。
――現在、もう1軒宿泊施設を運営されていますよね。
【大島】
そうですね。もともと宿単体ではなく、飲食や体験アクティビティなどを組み合わせて、地域全体をホテルとして楽しんでもらうイタリア発祥のまちづくり、“アルベルゴ・ディフーゾ”をコンセプトとしていました。その旗艦店として、2020年にオープンしたのが「月と海」です。こちらは元料亭を活かした宿で、現在はマイクロツーリズムで訪れるお客様が多いですね。
茂木町に共創の場をつくる
――先ほどのお話にもありましたが、コロナ禍により多大な影響を受けていると思います。大きく変えたこともありましたか?
【大島】
リモートワークの普及や都市部企業のサテライトオフィス進出、それに伴う関係人口創出の取り組みや地方との共創の動きが盛んになったので、「ぶらぶら」をオープンイノベーション拠点として今年の5月にリニューアルオープンしました。今後は、地方の本質的な課題に切り込んでいくためにも、合宿やイベントなどを通じて、関係人口を創出していきたいですね。
――宿泊、観光以外の切り口でも事業を進めていくのですね。
【大島】
もともと僕のやりたいことはまちづくりなので、そのために宿泊事業をしている、という表現の方が正しいかもしれません。これまでは、地元の方と旅行者が交わる交流の場をつくってきましたが、これからは新しい何かを生み出す共創の場をつくりたいと思っています。会社としては、「新しい働き方と生き方にチャレンジする全ての人を応援する」というテーマのもと、拠点である茂木町を新しい地方創生のモデルケースの実証の場にしていきたいですね。ゲストハウスをオープンイノベーション拠点としてリニューアルし、コワーキングスペースやシェアオフィスを開設したのは、その役割を担うためです。
――実証の場として、茂木町のもつアドバンテージはなんでしょうか?
【大島】
茂木町は、長崎市の中心地から一番近い郊外なんです。かつ、豊富な水産資源があり、農業も盛ん。そういった地の利はありながら、一方で高齢化などの社会課題もある。研究開発や実証実験の場として、企業側のインセンティブになるのではないか、という仮説を立てています。
ベースとなるのは暮らしや地域の営み
――まちづくり、地方創生などのキーワードが印象的ですが、大島さんにとってのまちづくりをお聞かせいただけますか?
【大島】
暮らし続けられるまちをつくることがまちづくりだと思います。暮らしを守るために仕事があり、補完するために観光がある。地方創生は共通概念のようなものとして捉えているので、キーワードとして非常に大切ですが、あくまでも暮らしや地域の営みがベースです。
――今後の目標や展望をお聞かせください。
【大島】
既存産業のアレンジなのか、新規事業なのかは分かりませんが、産業をつくることにコミットしていきたいと思っています。僕のなかでは、産業創出は暮らしを守るためのセーフティーネットみたいなイメージですね。これに関しては、コミュニティをつくり、プロジェクトをおこし、最終的にビジネスにしていく、という段階を踏んでいくと思います。今は、コミュニティをつくっている段階ですが、ただイベントをいっぱいやって「楽しかったね」で終わっていたら、大学のサークル活動じゃないですか(笑)。僕らはそこに企業を巻き込んで、ビジネスにしていく。まだ目指す産業の規模感は、はっきりとは見えていませんが、3年くらいかけて何か形にしたいと思います
大島さんとのSo-Gu体験
大島徹也さんとは、長崎県長崎市でSo-Guできます。
※現在、体験プログラム鋭意作成中。